全曲解説

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12.さっさっサンフジンズ

──それぞれのギタリストからすると、この曲みたいなチャック・ベリー・スタイルの9thを使ったギター・リフというのは、得意/不得意、苦手/好物という点はどうなんですか?

ジューイ  俺は大好物やけど、この曲のギョーイさんみたいなギターはよう弾かんですよ。もっと全然違うものになってしまう。この曲はギター・リフが機関車っていうか。そこはやっぱりギョーイさんが自分のレコードでやってはるのを見てても、セッションしてたのを見てても、あれさえあれば、ばっちりっていう感じ。

カイ まあ、確かに、所謂スリーコードのロックンロールっていう昔からみんながやりつくしてるやつだけど、ほとんどの人たちはああいう感じのノリでギターは弾かないですね。ああいう風には。

ジューイ あれ、弾いてる人はあんまいない。前に、ギョーイさんと一緒にやろうってなった時に、『いや、俺は16は弾かん。苦手や』って言ってはったの覚えてるんですよ。だから、やっぱちょっと跳ねてる感じの8ビートをどういう風にしたら出来るようになるのか? それを知るのは、俺の中のこのバンドでの課題ですよ。

カイ へへへへ。

──素っ頓狂なこと言っていいですか? このアルバムでの8ビートの跳ね感と、サンフジンズというバンド名が持つ言葉の跳ねる感じと、すごく似てるなと思うんですけど。

カイ あー、はいはい。その通りです(笑)。いや、どうなんですかね。でも、言いやすいですよ、サンフジンズって。歌詞の中にサンフジンズって入ってるんだけど、それも合ってるしね。

──そう。「サン」「フジン」って風に綺麗に跳ねていくっていう。

カイ そうそう。確かにこういうグルーヴこそが8ビートの喜びのひとつであって、しかも、日本ではほとんどやってる人がいなくて。うん、だから、いっぱいやっちゃお、みたいな(笑)。

──逆に、リアルタイムの海外の人で、同じように8ビートを追求してるなって風に感じる人っていますか?

カイ いや、実はみんなそうやってるんですよ、向こうの人たちって。例えば、AC/DCとかにしても、すごいベタベタに8ビートやってるように感じるんだけど、実はドラムもベースもギターも普通にタッタッタとは誰も弾いてないんですよ。それを気付くかどうかっつうか。やっぱり単純に向こうに行って、いろんな人とやってる間に、セッションとかして、ああでもないこうでもないってやってる間に出来るようになったんだろうね。いや、出来るようになったっていうより、聴いて、『あっ、そんなノリなんだ』みたいな。だから、正直、向こういかなかったら気付かなかったですよね、僕は。『てことは、どういうことなのか?』って分析してみたりね。まあ、分析してもわかんないんですけど。で、現場で実際にソレをやらしてもらう機会があったことで、まあ……覚えちゃった(笑)。

ジューイ (笑)。

カイ 僕は『29』の時に初めて向こうに行って、レコーディングしてるんで、僕にとって、やっぱりあの辺の十年間くらいがデカいですよ。『知らないことだらけなんだな』っていうね。

──それが分析の結果じゃなくて、実感で入ってくるというのはデカいですね。

カイ そうそう。だから、自分でそれがギターで表現出来てるかは抜きにして、まあ、ちょっとずつグルーヴの中に染みてきたんだと思うんですよ。練習してどうのこうのってことじゃないと思うんで。『あんときのアレだろ?』みたいな。うん、経験なんだよね。そういうのの何年間かの積み重ねで。

──ということは、『29』を作って以来、ある種の、一つのことを--もちろん、脇道もあったんでしょうけど--突き詰めてきた、と言えなくはない?

カイ そうそう。わりとそうです。ただ、自分の『ロックンロールはこうなんだよ』みたいなことを言うつもりもなかったし。サンフジンズにしても、いちプレイヤーとして参加してるうちに、そういうムードがちょっとづつ染み出てって、バンドの音が何となく良くなりゃいいわけで。例えば、完全にニューヨークのバンドにならなくったっていいわけで、また別のものになれば。だから、それは押し売りするつもりもなかったですし。まあ、出るもんは出るだろうと思ってるところはあるし。

──このサンフジンズのアルバムを聴いた時にひとつ感じたことがあって。奥田民生という人がソロ・ワークをやった時には、演奏以上にソングライターとしての側面が目立ってしまうところがある。一度そういうった部分を剥ぎ取ってみて、極力シンプルなソングライティングと、語呂合わせを軸にした、シリアスにもエモーショナルになることもない歌詞というのは、そうじゃない部分にフォーカスするには、ひとつ最適なものでもあったのかな、と。

カイ まあ、そこまで計算はしてないですけどね。当然出るものは出るし、そうやりたいっていう気持ちはあるわけですから。そこは自然に出りゃいいと思いましたし、そういう風になってったら、このトリオというのが日本ですごい珍しいグルーヴを出すバンドになる可能性もあるし。それはやってるうちに出来るかも、とは思いましたけどね。でも、僕、このバンドでは16だってやりたいんですよ、将来。でも、練習したい(笑)。

13.サンフジンズのテーマ

──この曲のE弦の開放の音を鳴らした感じはジューイくんですか?

ジューイ うん。

──これは最初、どういうアイデアから始まったんでしょう?

カイ これは、ジューイに歌詞を送って、作り始めるっていう、その始まり。一番最初ですよ。サンフジンズの曲を作らないといけないと思って、作ったんだから。これが初期衝動っていうか(笑)。まずは、サンフジンズは医者じゃないんだということをね、言っておかないと困ることになるんじゃないか、と(笑)。

ジューイ で、続きを作って、メロディを付けて。

カイ 終わり(笑)。

ジューイ でも、思ってたよりもいい曲というか。録音した時、キー設定が低かったんですよね。録ったやつが暗かったんですよ。それが気になってて。で、ギョーイさんが『この曲はライブでも録ってるから、そのテイクと繋いだらどうだろう?』って言い出しはって(笑)。

カイ 最初の軽妙な司会から入るタッチと--妙に軽いんですけど、あれ(笑)--で、真ん中は普通にスタジオで録ってるんですけど、エンディングの途中でミヨーンとライブに戻したんですよ。で、いつの間に気付くと、ライブの終わり方をしてるんですけど、テンポもわりと近かったんで、ズルッと変えてみたら、上手くいたんですよね。

──アナログ・テープを切って繋げる感覚に近いというか?

カイ みたいなことですよね。

ジューイ ほんなら、ようできてんな、というか。すごいなと思ったんですけど。

カイ うん、ちゃんとしてんなと思って。

──さっきジューイくんが、無意味なことしか書いていないように見えて、一ヶ所、二ヶ所、きちんと意味がある--そう彼は分析しましたけれど、この歌詞のリリックには、サンフジンズは治すんだ、と言ってる部分があります。「サンフジンズはね/医者じゃないんだ/ほんとはね/だけど/きみの病気を治せるんだよ」。「サンフジンズはね/医者じゃないんだ/ほんとはね/だけど/未来のきみを元気にするんだ」っていう。

カイ まあ、治すっていうのも言ってるだけだろ(笑)、っていうニュアンスですよね。本当に治す気はないんじゃないか?っていう(笑)。かっこいいねサンフジンズ、言っとくけど医者じゃないからね?っていう。その身も蓋もないのがテーマというか、全体の空気を支配してるテキトーさ。でも、この歌詞が出来た時、すげえいい歌詞ができたと思ったんですよ。

ジューイ それはみんな言ってた。

カイ 出だしがそれでも何とかなるんだ、っていう(笑)。

──リリックの構造としては、この前のユニコーンの “私はオジさんになった”にどこか似てるところもあって。あの曲もリリックとしてはすごく面白くて。

カイ うんうん。

──不思議な構造になってる。要するに、言ったことどれもが本音だっていうことだと思うんですけど。

カイ だから、その全体のムードが本音ですよ、言ってみりゃ。どれか一つとってもらっても困るし。そのバランスですよね。だからこ、この曲のテーマもね、『だから君の病気を治せないんだ』って言うことも出来たんですよ。勿論、『ええー? そんな?』みたいな終わり方をする曲も、それはそれでアリだとは思うんですけど、ここは妙に良心が働いたというか(笑)。テーマだしな、みたいな。治せるって言うだけ言っておこうかな、みたいな。で、治せるって言ったおかげで、むしろ余計に無責任な作品になってしまったっていう(笑)。かっこいいねサンフジンズ、でも、何が言いたいんだ?っていう(笑)。

──でも、どこか無責任でいたい、というところもがあるんじゃないですか?

カイ そういうところを無責任でいないと--責任を負ってる暇はない、ということですかね。そういうところで責任をとるのはもっと別の人達だと。僕たちはそうじゃないです、と。そこは他の人によろしくお願いします、という。そういうのって、ソロでも雰囲気はあるとは言え、やっぱりバンドというところもあるし。何かツッコまれても、まあ、3人で一緒に怒られるんだからいいや、みたいな。そういうところがバンドなわけで。まあ、ユニコーンもそうだけどね。そういう無責任さっていうのはバンドらしさだとも思うんですよ、うん。

──そうしたところも含めて、あらゆる意味で、バンドというものを定義するレコード、という気がしました。乱暴にざっくりとまとめると。

カイ んふふふ、いや、いいと思います。

──今日はどうもありがとうございました。何か正しておいてもらった方がいいようなことはありますか?

カイ いや、なんか思ったよりも、僕の詞から始まる曲がこんなにあったなんて、と、今、少し恥ずかしくなってる(笑)。

ジューイ 俺も話してて、こんなにあったんだって思った。

カイ というか、途中までは曲ちゃんと作ってたけど、後半は歌詞しか作ってない(笑)。

──最後にひとつだけ。サンフジンズがアルバムをリリースしますという時に、おそらく誰もがどうなんだろう?と思い浮かぶことがひとつあって。大地くんはSAKEROCKが一段落したところもある、でも奥田民生という人はソロワークも続けるだろう。繁くんにはくるりというホームもある。そうした時にサンフジンズというのは、どれくらい継続的なパーマネントなバンドなんだ?っていう、素朴な疑問はあると思うんです。

カイ まあ、隙間産業と言いますか--絶対、言葉が合ってないと思うけど(笑)--二毛作とでも言いましょうか。正直、そういうそれぞれのがあるから出来るっていうのはあると思うんで。これだけやってたら、もっとやりたいことを詰め込みたくなるでしょうし。こんぐらいのタッチにならない可能性があるんですけど。それこそ、忙しい時に時間がないから、こうなったみたいな部分も含め、隙間隙間でやったら出そう、ちょっとライブもやろう、みたいなのがいいと思うんですよ。形として、動きとしてはね。だから、これからもそういうことで、空いたらやるか、みたいなものでもあるとは思うんです。『2年かけて作りました!』っつうのを誰も期待もしないでしょうし、僕らもやりたかないし。やっぱりスピードが命なんですよね、この三人の場合。『もうかれこれ10分考えたぞ、もう止めよう』(笑)みたいな、そういうスピード。そういう切り捨てスピードみたいのがいい方向にいくバンドなのかな、と。ライブ自体はやっぱりやればやるほど、よくなっていくと思うんで。今でも形になってるっちゃあなってるんだけど、もっとバシッと形になりそうな気がするんだよね。だから、それがまだユルいうちはやってるでしょうね。

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