04.右から左
──これもわりと早い時期の曲?
ジューイ これは一番最初です。
──これはヴァースを書いたのは?
カイ 最初は僕ですかね。
ジューイ 俺はブリッジだけ。
──確か、この曲はユニゾン・ヴォーカル。
ジューイ ハモってもいるよ。
──いずれにせよ、今、文化として失われつつあるダブル・ボーカルなところも特徴です。
カイ そうですね。せっかく三人いて、歌う人が二人いるからには、一人でずっと歌わなくてすむっていうのがあるけど。同時に二人が歌うっていうのは、ずーっと二人が歌っててもいいわけで。そういう曲はソロでは作りにくいしね。
ジューイ 最初、一緒に曲作ろうってなった時に、この曲とかは、自分と作ることを意識して送ってくれはったのかなと思ったんですよね、何となく。最初から、後半から作るようになった3コードのロックンロールとかではなかったですから。で、多分、お互いのパブリックイメージを試すような作業やったんかな? そういう時期の曲ですね。
05.サーフジーンズ
──この曲は、リンク・レイだったり、ディック・デイルだったり、3コードを基調にした所謂サーフ・ロック?
カイ はい。
──しかも、ほぼインストゥルメンタル。この曲は、ある意味、バンドの軸のひとつと考えてもいいんでしょうか?
カイ はい。プロモ、これしか作ってない(笑)。コレを推すっていうのはアリなのかな、というのはありました。プロモーション用にこの曲を選ぶと、歌が入ってないから演奏聴くしかないんで、最初はいいかなと思って。だって、どうせ歌うのはわかってるでしょ、っていうはありますんで。なんですかね。まあ、こっちが楽しそうだったらいいかな、と。インストあったらいいなと思ったんで、作ってみました。
ジューイ でも、最初はこういう曲がくると思ってなかったから、一番びっくりした。勿論、みんなそれぞれがアイデア出すんですけど、当然ですけどギョーイさんはすごいアイデア・マンで。誰も見てないところ見てるから、『えっ!?』ていうのが多いんですよ。でも、『えっ!?』から形になるのがすごい早くて。この曲もほぼ完璧なデモが送られてきたんですよ。俺、これは奥田民生さんソロでやっててもいいんじゃないか、って思ったんですよね。でも、これをサンフジンズでやるって言われて。『でも、俺、ギターもベースも弾けんなあ、どうしようかな』って(笑)。
──じゃあ、リズム隊は大変だった。
ジューイ ケン君はわりとサクッとでしたけど、俺は大変でした。
カイ 休憩しながら。
ジューイ 実はパンチインしてるんですけど、後半の方が上手く弾けてる(笑)。
──でも、今、この早さのウォーキンベースとかないでしょう。
ジューイ どうなんでしょう、あんまりイメージはないけど。でも、自分もサーフ・ロックとか好きやし。ベンチャーズとか。あるいは、速い8ビートのロックっていうんですかね。ディープ・パープルみたいのとか。そういうのに倣ったところもあるんやけど、同じバンド内でプレイしてる人を参考にするってことが多かったですね。『どういう風にベース弾いてんのかな』、『ドラム叩いてんのかな』とか。これ、最後に録音したんですけど、多分、いろんなパターンのロックンロールをやるのを経て、やっぱりケン君のタイコのキャラっていうのが一番出たんちゃうかな、と僕は思っていて。このバンドの演奏というのがすごい出来た曲になったんちゃうかな。
06.ハリがないと
──この曲も、“サーフジーンズ”とはまったく別のグルーヴではあるものの、バンドの軸になるような曲。これがバンドの軸でいいのか?っていう世間的な話はありますが(笑)。
カイ そうっすね、いいんじゃないですか(笑)。
──基本になってるのは、エルヴィス・プレスリーの“冷たくしないで”辺りにも似たすごくオーソドックスなベース・ラインとリフですけど。
カイ そうすね。
──でも、タイコはもうちょっとマンボとか、チャチャとか、ラテン系ぽいっていう。
ジューイ 最初、タイコはもっと普通ぽく、他の曲と同じようにやろうとしてたんですけど、ケンくんて、細野さんとこでロックじゃない、ロック以前のリズムでやってはることも多くて。その要素が、個人的には欲しかったんですよね。そういう打診をしてみたら、すごいうれしそうに叩いてくれたから(笑)。
ケン まあ、こういうリズムはSAKEROCKでもよく使ってたし。カリプソとか。本物の人からしたら、カリプソはこのリズム、マンボはこのリズムっていうのはきっちり分かれてると思うんですけど、細かいことは気にせずに、その雰囲気が出るパターンというか。そういう意味で自分が好きなパターンなんですけど。
ジューイ この曲でやるっていうのがいいよね。
ケン そうそう。
──最初に曲を書いたときには、こういうドラム・パターンというのは想像していなかった?
カイ うん。ただ、なんか、合ってるような合ってないようなっつうのが、実はロックンロールだったりね……するかな(笑)。昔だとね、ジャズのセッション・ドラマーがやらされて、ドラムだけ全然ノリが違うけど、それが成り立ってたっていうのが、ロックンロールの始まりだったりしますから。だから、まあ、ぽいかな、とは思うけど(笑)。
──でも、そのベースとドラムの、もしかしたら合わないかもしれない感じに、裏拍を意識したギターを合わせることで、グルーヴさせていくんだっていうのを、ギタリストとしてかなり意識的にやった曲なんじゃないですか?
カイ いや、そこまで考えないですよ。結果がおもろかったから、まあ、いいやって。
ジューイ この曲をライブでやるときにね、わざとギターをずらさはるんですよ。俺はそれがおもしろくて。そういうふざけた感じの曲やからっていうのもあるけど、どっからそれがきてるのかも、ようわからんけど--。
カイ ふははは。
ジューイ そのはずれた感じのギター・ソロとかも、自分の中の奥田民生さんっていうイメージの一番はじっこにあるけど、でも、すごい大事にしてる部分が見えるような気がして。『なんなんやろう、あのズレ?』みたいな。
カイ (笑)。
──3つ目のヴァースでギターが引っ込むじゃないですか。あそこが一番すごい。
ジューイ そうそう、あそこ。あん時ねえ、ガッ、グガッていう。
カイ あれ、ズレてるんですけどね。失敗したんです(笑)。
ジューイ 一番ハッとしたかもしれないです。これでOKなんや、みたいな。というか、これやから、良かったんや、みたいな。
──そのズレるってことでいうと、最近の音楽の流行り、オン・グリッドではないグルーヴ--J・ディラだとか、最近のディアンジェロだとか--どこかズレてるんだけど、一つになってるっていうグルーヴというのは、三人の興味の範疇で言うと、どうなんですか? あれもブルーズに端を発したロックンロールの一つの形ですよね。
カイ 勿論、そういう新しいものが生まれたらおもしろいでしょうけど。まあ、何ていうのかな。失敗したみたいな音が、このアルバムって全般的にあるわけで。最近は、そういうのを失敗したって言って消す奴が多いから、消すんじゃねえ、と(笑)。それはそれで色気になってんだっていうところは見本としてですね(笑)、残しておきたいっていうのはある。ギター・ソロだっておかしな音程のところがあったりするんですけど、それを残してるんだなっていう。それには理由があるというか。
──結果的に、態度の表明にもなってる。
カイ そうですね。
──あそこの3バース目が、自分の今の感覚でいうと一番グルーヴィ。
ジューイ わかります。ディアンジェロの一番新しいのとかすごい好きやったから。
07.パン屋さん
──この曲はくるりが得意とする三連のリズムの曲でもありますけど、当然のことながら、また別の感じに仕上がってる。
カイ この曲はほぼジューイですよ。俺はもう、最後に付け足しただけで。俺が歌い出したところを付け足して、それを繰り返しただけで。これはもうほぼ岸田作品ですよね。
──これはいつ頃の曲?
ジューイ “右から左”もらった頃ですかね。最初に書いて。
カイ 共作っぽくしたかったけど、もう何かここに新しい世界とかメロディはいらんなと思ったから。『〓焼きついた~』って繰り返しただけです(笑)。
ジューイ この曲はやっぱり、すごい俺の色を出した曲やったから、自分の専売特許的なところもあるとは思うんで。でもやっぱり、このお二人の解釈というのが目から鱗だったところがあって。自分でもこれはちょっと曲が出来すぎてるなと思って投げたんですけど、こういうベースを付けてきはるとは思わなかったから。かなりビックリしました。
──この曲のベース・ラインも、ポール・マッカートニー的な?
カイ このコード進行でベースがどんどん動くのってすごい難しくて、早く終わりたいって思ってるんですけど(笑)。ライブでも『早く終われ』ってサインを出してるんですよ。
──でも、ベース弾きまくってるでしょう。
カイ そりゃ、弾くからにはいろいろ弾かないと、と思って、やってんですけど、最後には、『ああ、良かった、終わってくれた』って(笑)。