全曲解説

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08.富士夫人

──こんなにエモーショナルに奥田民生という人が歌うのも久しぶりだなあ、と。

カイ (笑)そうですか?

──そもそもヴァーカリストとして、あまりエモーショナルになりすぎたり、シリアスになりすぎたり、というのは好きではないと思ってました。

カイ うーん、曲によるし。まあ、でも、この曲ってエモーショナルになればなるほど笑えるんで。だって、富士夫人ですからね、『怒られるから』ですからね(笑)。だから、真面目にやった方が笑えるんじゃないか、ってところもあったかな。

──要するに、こういうリリックじゃないと、エモーショナルに歌えないんだろうなっていう。

カイ まあ、確かにね。そういう真面目な曲をね、真面目に歌うのは真面目な奴だよ。

──(笑)。

ジューイ 最初にギョーイさんが歌詞を送ってきて、ちょうど--。

カイ 俺、そればっかりだね(笑)。俺が最初に詞を書いてるやつ多いんだね。

ジューイ 多いですね。で、歌詞がきて、そん時にふざけた曲を作ってたタームやったんで。

カイ タームって(笑)。

ジューイ で、この“富士夫人”は詞がちょっとだけシリアスでしょう?

カイ はははは。

ジューイ なので、あえて曲をなんとなくエモい感じにしてみた、みたいな。でも、そういうタイプの曲を投げたら、嫌がられるかな、と思って、俺、ちょっと躊躇してたんですけど。でも、わりとわーっと形になったんですよ。で、よし、と。演奏するのは、一番楽しい曲。

──ケンくん的にはドラムとしてのアプローチはどうだったんですか?

ケン 最初、ライブのリハーサルで作ってるんですけど、僕は。ライブ用にアレンジを決めていったんですけど。途中で変えましたよね、たしか。

カイ ちゃんとレコーディングするにあたって変えたよね。まずコード進行も変わったし、構成も変わったし。わりとパターンじゃなくしたんだよね。

ジューイ 最初、ちょっと俺も上手くいかなくて。Bメロから入ってたのをやめたんですよ。

──曲後半の長めのアウトロも印象的ですけど、これはレコーディングの時に?

カイ これもラライブで曲が足りないときの副産物でね。とかくエンディングが長いっていう曲が最初のころは多かったんですよ。真ん中とケツを長くしないと、ライブが早く終わってしまうっていう(笑)。だから、この曲もケツが長いんですよ(笑)。

09.そのかわり

ジューイ この曲を作った時、俺、かなり泥酔してて。ホテルで、『サンフジンズの曲作らんと』って思いながら、適当に口笛とか吹いてて。その音の悪いデモをかなり初期段階で二人に渡したんですけど、自分はその存在も忘れてて。そしたら、それが完璧なデモになって返ってきたんですよ。で、口笛も入ってて(笑)。

カイ だって、そりゃ、ジューイが入れてるから(笑)。

ジューイ そのまま曲になってたから。そんなことまで拾ってくれるんだな、って。バンドっぽいというか。

カイ これはね、とにかく口笛が入れたくて入れたくて(笑)。曲はずっと同じような冷たい感じでサーッと過ぎてきゃいいと思ってて。歌もどっちかっていうとそうですけど。まあ、口笛さえありゃ、何とかなる曲だな、と思って、デモ作ったんですけど。でも、僕、口笛すごい苦手なんですよ(笑)。実際の録音の時も、僕はクビになり(笑)、ご飯を作ってた奴が参加することになったっていう。

──「君のかわりは誰も/僕のかわりは誰も」というラインの最後のところで、一ヶ所だけトニックが変わるところも、ジューイくんの最初のデモにはあったんですか?

ジューイ あの、一瞬だけ変わるところ?

──そうそう。あそこ、いかにも奥田民生印だなって。

カイ あざーす!

ジューイ 俺は最初、ほんま曲の骨だけを渡して。その後のいろんな技の部分はほとんどカイ・ギョーイがやってくれた。

カイ そうですね、Aメロしかなかったです。最初、歌って、口笛吹いて終わってたんですよ。それをもう一回歌って、もう一回口笛、その後は全部作りました。でも、結構そのまま、感じを変えないで。とにかく口笛だ、と(笑)。

──やっぱりシンプルな構成のソングライティングに対して、グルーヴであったり、トニックの変化だったり、上物で変化をつけていくっていうのは、かなり興味もあるところですか?

カイ そうすね。そういう方が割と好きですね。自分でもそういのが多いですよね。

10.ちゅーきんキング

カイ やっぱりこれも俺が最初に歌詞を送って(笑)。

ジューイ で、『ええー?』と思って、かなり困ったんですけど。最初は、跳ねた感じの、それこそビートルズ以前の感じっていうんですかね。ボ・ディドリーとか、もっとブギーぽい感じというか。そういう感じで持っていったら、ハード・ロックになった、っていう(笑)。それで、やってるうちに、真ん中のとこで歌詞の掛け合いをやろうっていうアイデアが出てきて、それのためにやってるような曲になったんですけど。でも、ベスト・テイクが録れたなと思ってて。

カイ ふはははは。

──ジューイくんが演奏の部分で、刻んで跳ねさせるのは得意の部類だと思うんですけど--。

ジューイ うん。

──刻んで跳ねてるビートの上にボーカル・メロディが跳ねていくっていうのは、若干、苦手なんじゃないですか?

ジューイ すごい苦手です、自分が滑舌が悪いので。歌詞もわりと平仮名っぽいというか。しかも、弾きながらっていうのもあるし。こういうの弾いてる時は、ほんまは自分は歌いたくなかったんですけど。だから、俺の中ではこの曲がまだ一番分かってないジャンルなんですよね。全員の演奏が、というか。その感じでレコーディングして、『こんな感じしかできなんですけど』っていうのがOKならOKなのかな、っていう(笑)、それくらいの自信のなさで。

──この曲の場合、タイコの解釈は、所謂スウィングっぽいロックンロールなのか、それとも2ビート的なものなのか、どの辺りをイメージして叩いたんですか?

ケン これはライブ用にまずリハをしたんですけど。その時は録音は2ビート的にやってるんですけど、スネアは古いロックンロールのスタイルというか、スネアをツタターン・ツタターンってやってたりして。結局、録音の時は、ハットでツッタン・ツッタンと、キックで跳ねさせるみたいな演奏してるんですけど。でも、ライブではスネアで刻む方に戻してもいいよね、という話もしたりしてて。わりとどっちでもいける曲ですね。

ジューイ やっぱりベースがブリリリ・ブリリリって鳴ってて。さっき話した、バシッとハマってるんじゃない、多分、全員タイム感が違うんだけども、バーっといってるっていうのなんかな。自分ではあんまりまだ分かってない。

ケン この曲って、中間で熱いソロがあって、その冷めやらぬまま曲が終わるっていう。コテンっと転んでから、また戻るというか。面白いですよね。

──この構成も最初から?

カイ まあ、これはライブの構成ですよね。

──ギター・ソロに関してはどうなんでしょう? 間奏とアウトロそれぞれのソロ。間奏はジューイくんにしては、かなり珍しいトリル。70年代的というか、リック・ニールセン的な。

ジューイ 俺、レスポールは、ピロリピロリピロリっていうのしか出来ないので(笑)。だから、どれだけやり続けられるか?っていうのをやってみたんですけど。

──アウトロのギターはディレイも思いきり使って、どこかエッジ的な。

ジューイ そっちは得意やから。その時、たまたまディレイを借りたんで、それを使って。そしたら、そのまんまみたいな感じにもならなかったので。

──やっぱりこの曲もバンドとしては軸って感じはしますか?

カイ そうですね。ライブ用ですし、わかりやすいですしね。お客さんの反応もいいと思うんで。詞の内容はともかく。

──(笑)「駐車」と「注射」の語呂合わせ、そういう縛りの中から作った?

カイ まあ……そうですよね。

──真面目に訊いて、真面目に答えてもらう質問でもないと思いますが(笑)。

カイ そうです、そうです(笑)。

11.奇数したい

──この曲ももう少しテンポ・アップして、タイトなスネアの裏打ちにすれば、カチッと固まるところをあえて遅めにした、そういう印象があります。

ケン そうですね。もっちりしてるけど、それがこの曲の色というか。曲の一番最後には拍が変わるんですけど、感覚としては1グルーヴというか。みんなでやってみたら、わりとテンポが遅くて。でも、結果的にいい感じというか、バンドなノリというか。

ジューイ 苦労せえへんかったよね。これ、最後の方にレコーディングしてたんですけど、『こういう難しい曲も出来るようになったんやな』って。

──これは詞先ですか、曲先ですか。

カイ これも詞先ですよ、僕が送って。そればっかり(笑)。テキトーなことばっか。

──最初は「キス」と「奇数」の語呂合わせから始まった?

カイ そう。

ジューイ でも、最初は“キス”っぽく歌ってたんですよ、『♬奇数しよう~』じゃなくて。ギョーイさんて、あんまりヴォーカルのディレクションはしてこないんですけど、これだけは『いや、キスウって歌ってくれ』て。
カイ アルバムを通して、それしか言ってないと思うよ、ヴォーカルについては(笑)。

──あと、中盤のブリッジや最後のアウトロの拍子が4から3に変わるのも、「散々最後の最後に奇数」っていう歌詞にわざわざ合わせた?

ジューイ そうですね。ずっと3やと気付かないだろうから、どっかで奇数にしようと思って。でも、5とかややこしいから、シンプルに3にしよう、と。でも、ギョーイさんから送られてきた中でも、すごいいい歌詞だなと思って。

カイ (笑)でも、これ、ほとんど何にも言ってないけどね。

ジューイ 俺はすごい好きで。

カイ だから、『日本のBBA(※ベック・ボガード&アピスのこと)/いやむしろ/ジージーイーに近い』とかっていう歌詞で、ちょっと我に返って(笑)。『なんだ、この歌詞?』って思ったんですけど(笑)、もう変えられなかったですね。歌い入れ前くらいに、なんとか変えようと思ったんですけど。

──ただ歌詞については、例えば、リトル・リチャードの「Wop bop a loo bop a lop bom bom」みたいな、何も言っていない歌詞、それこそが理想の歌詞だっていう視点もあります。

カイ そうすね。そんなに意味がバズッとこられると嫌なタイプなんで。その人それぞれいろんな受け取り方が出来るような歌詞のが好きは好きなんで。まあ、今回はダジャレなんで、その2コのダジャレ以外のことはそんなに想像つかないと思うんだけど。まあ、作り方としてはいつもこんなですよ。

ジューイ でも、何もちゃんとしたことを歌ってないようで、必ず何かしら含みのあるような言葉が1、2ワードあるんですよ。どの曲の歌詞も、それに気付くようになってるから、すごい。

カイ いや、まあ、そりゃ、このメロディあってのね。ちゃんと作ってくれてありがとうっていうね(笑)。しかも、このアルバムの中で一番キーが高いんじゃないかっていうね。こんな歌詞なのにね。

ジューイ これくらいなら出るやろって思ってたんだけど、出えへんかった(笑)。

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